乳腺外科では、乳がんの診療全般(診断と手術および薬物療法)を行っており、安心して質の高い乳腺(乳がん)に対しての「標準治療」が受けられることを目標としています。
ここでいう「標準治療」とは、科学的に証明された多くの人にとって「質の良い」医療のことで、「標準治療」を正しく患者さまにお届けすることが、「最善」と考えています。
乳がんにはさまざまなタイプや性質があり、それを正しく診断して「最善」の治療を行うことが必要です。一方で何が最善であるかは患者さまの個々の生活環境、認識、年齢によって異なりますので、どのような治療を受けたいか、どのような生活を望まれるかなど、納得するまで話し合いましょう。
話し合いの結果で得られた内容が、どのようなものであったとしてもそれが患者さまにとって「最善」と判断されたなら、それに沿ってできる限り品質の高い診療を届けることができるように対応いたします。
また、乳がんの治療は置かれた病気の状況によっても「最善」が何か変わってきます。自覚症状がない時に見つけることができれば、手術を乗り越えることが最善になり、がんが周囲(リンパ節など)に広がっていれば再発を防ぐことのための治療(抗がん剤など)をきちんと終えること、仮に手術で取りきれなかったり再発してしまった場合は今の生活を維持しながら治療を継続することが「最善」になるかもしれません。
当院では、緩和ケアも行っており、痛みや吐き気、食欲不振、だるさなど体の症状だけに限らず、気分の落ち込みや孤独感など心のつらさを軽くすること、また、自分らしい生活を送ることができるようにすることなど、患者さまのニーズに応じて医師だけではなく、様々な職種のスタッフがサポートします。
*治療に関わる費用に関しては、どうぞ遠慮なくスタッフまでお聴きください。現在の生活を維持する上でも、お金のことは重要な問題だと考えています。
乳腺外科では大別すると下記のような疾患を取り扱っています。
乳房を全摘出することなく、乳頭、乳輪を残した上で、がんを周囲の正常乳腺を含めて部分的に切除し、乳房の変形が軽度になるように形を整える手術です。
また、手術前に触診や画像診断でがんの広がりを評価、術中にセンチネルリンパ節生検という検査などでわきの下のリンパ節の転移があるかないかを調べます。転移があった場合は再発を防ぐためにリンパ節を除去します。
術前の評価でがんを取り除いた後に乳房の変形が強くなることが予想される場合や、術後の放射線治療が受けられない理由(膠原病など)がある場合に乳房を全て切除する手術を選択することがあります。(必ずしも、乳房切除する方が部分切除するより、がんが進行しているということではありません。)
乳房を全て取り除いた後は、以下に示す再建術を選択することができます。
乳がんの手術で失った乳房を新しく作り直す手術で、乳腺外科と形成外科とが協力して実施します。乳房再建の仕上がりや安全性には、乳がんの治療方法や患者さまの状態が大きく影響するので、患者さまの希望などを確認しながら共に相談し進めていきたいと思います。
薬物療法は、「手術や他の治療を行ったあとにその効果を補う」「手術の前にがんを小さくする」「根治目的の手術が困難な進行がんや再発に対して、延命および生活の質を向上させる」などの目的で行います。
乳がんは「ホルモン受容体」(エストロゲン受容体[ER]とプロゲステロン受容体[PgR])のあるものとないものに分けることができ、手術後に、ホルモン受容体のある乳がんかどうか、がんの組織を詳しく調べます。「ホルモン受容体」のある乳がんでは、女性ホルモンががんの増殖に影響しているとされています。
内分泌(ホルモン)療法は、女性ホルモンの分泌や働きを抑えることによって乳がんの増殖を止めようとする治療法で、ホルモン受容体のある乳がんであれば効果が期待できます。手術後なら、再発を予防する効果が期待でき、進行・再発乳がんでは進行を抑える効果が期待できます。
化学療法は、目的に応じて使い分けます。例えば、早期の乳がんでは、転移・再発を防ぐことを目的として手術後に化学療法を行います。手術後の化学療法によって、再発率、死亡率が低下することが報告されています。
また、手術を行うことが困難な場合や、しこりが大きいために乳房の部分切除ができない場合には、3カ月から半年ほどの化学療法を行い、腫瘍を縮小させてから手術を行うこともあります。
がんと診断されたときから、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)を維持するために、体や心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげたり、患者さまとご家族が自分らしく過ごしたりするための緩和ケアが重要です。痛みや吐き気、食欲不振、だるさなど体の症状だけではなく、気分の落ち込みや孤独感など心のつらさを軽くすることで、患者さまが自分らしい生活を送ることをサポートします
乳がんは、女性が患う「がん」の中で一番頻度が高く、他のがんに比較して
40代という若い時から発症する
という特徴があります。そのため、メディアを介して若くして乳がんになった方の情報をご覧になられた方は多いと思います。一般的にがんという病気は、自分達が持っている設計図である遺伝子(DNA)から身体を作る過程で間違えて変なものを作ってしまう現象で、作り間違い(がん)は年配の方に多いことが知られています。
この紙面をご覧になっている女性の方、またはパートナーに女性がいらっしゃる方にお聞きします。40代は何をされていましたでしょうか?検診には行かれていましたでしょうか?「忙しくて行けなかった。」「子供や仕事を優先した。」など、様々な理由があると思いますが
日本女性の全世代(40~69歳)の乳がん検診受診率は34.2%、
40代だけであれば受診率は40%弱という状況です。(日本医師会:日本のがん検診データ)
この数値は多いと思いますか?比較として
米国の女性マンモグラフィー検診率は81.1%
(OECD Health date 2011)であり、日本の乳がん検診率は欧米の約半分というのが現状です。
なぜ、「乳がんで命を落とさないために検診を受けることが有効なのか」をご説明します。
まず図1を見ていただきたいのですが、世界的に乳がんの罹患率(なる人)が増えていることは一目瞭然です。
図1:10万人辺りの年齢調整乳がん罹患率
しかし、図2にあるように死亡率(乳がんで亡くなる方)は世界的に年々減少しているのにも関わらず、日本と韓国は依然増加しています。(韓国の乳がん検診率は45.8%/※韓国Republic of Korea: Cancer Facts & Figures 2008 in Korea)
図2:10万人辺りの年齢調整乳がん死亡率
原因としては様々な要因が考えられますが、欧米との死亡率の差は検診率の差がひとつの原因と言えます。乳がんは早い時期に見つけることができれば治すことができる病気になり、
現状では乳がんを早期に発見する最も確かな方法は検診です。早期に発見することで命に関わる(=転移する)前に発見することが可能です。(もうひとつの原因として喫煙の関与が重要視されています。)
皆さんは、乳房にビー玉が入っていたら気がつきますか?早期とはビー玉くらいの大きさで見つけることを示します。この時点で発見できれば90%以上は大丈夫(Stage Iの5年生存率90%以上より)ということになります。
「検診を受けていたのに発見が遅れた」、つまり進行した状態で見つかる方は一定数(頻度は不明)いらっしゃいます。残念ながら、乳がん検診は万能ではありません。ただ、短期間(約2年間)で乳がんが大きくなるような場合に認められる傾向がありますので、以下の2つのことを覚えていて下さい。
アンジェリーナジョリーという役者はご存知でしょうか?彼女は自分がHBOCであること、また乳がんになっていないのに両方の乳房を予防的に切除したことを公にして、その勇気ある行動に注目が集まりました。なぜ、彼女はそのような選択したのでしょうか?乳がんに罹患する方の中には、もともと乳がんになりやすい設計図(遺伝子)を持っている方がおり、それは代々受け継がれていく(1/2の確率で遺伝する)ことが知られています。そのなりやすい遺伝子(BRCAという遺伝子の変異)を持っていると、70歳になるまでに60-80%の女性が乳がんに罹る可能性があり、
比較的進行速度の早いタイプの乳がんになりやすい(トリプルネガティブタイプ)こと、また検診で発見しづらい卵巣がんになりやすいことが知られています。では、自分がそのような遺伝子を持っているかどうか、どのように判断したらいいのか?
<対策>
簡単チェック表(HBOCコンソーシアム)があります。もし、これに当てはまったらどうすればいいか?まずは「遺伝相談外来」がある医療機関を受診すること。そして、信頼できる乳がんの専門医に相談できる環境を整えておくことが重要です。
乳房の形が千差満別であるのと同様、マンモグラフィーに映る乳房も千差満別です。レントゲンが乳房をすり抜けて写真となる時、乳腺(ミルクを作る臓器)の密度が濃い(しっかりしている)と写真は白くなります。逆に乳腺の萎縮が強いと白みは弱くなります。つまり若い、授乳ができる年齢ほど乳腺はしっかりとしており白くマンモグラフィーに映るということになります。一方で、乳がんはマンモグラフィーに何色に映ると思いますか?
乳がんはマンモグラフィーに映る時には、白く映るので白いキャンバスに白い物を描くようなもので、見えにくいことは容易に想像できると思います。高濃度乳腺の方はせっかくマンモグラフィー検診を受けても検査の精度が落ちている可能性があり、アメリカでは「高濃度乳腺」であることを知ることは患者の権利であると法律として設定されている州があるくらいです。
<対策>
あなたが閉経前の場合、 今後マンモグラフィー検診を受けた時に、医療従事者に対して「私はマンモグラフィーでは高濃度乳腺ですか?」と聞いてください。もし、そうだと言われたら、次に「超音波は追加した方がいいでしょうか?」と聞きましょう。そうすることで、良いコミュニケーションが取れると思います。
また、当院には新しいマンモグラフィーの検査機器を導入しているので、そちらもぜひ一度紹介ページを見てみてください。この文章をお読みいただいた方にとって、乳がん検診を受けるきっかけになることを願っています。